日時:20171210() 15:30~17:30 会場:サンパルネ・コンベンションホール 講師 ドリアン助川氏 早稲田大学校友 作家、音楽道化師

「それでも人生は美しい 小説「あん」に込めた思い」

 わが母校早稲田は、校歌「都の西北」にもあるように多彩な人が集まる心のふるさとである。東村山稲門会にも、早稲田に学び、社会に出て、様々な経験や実績を残した校友が集まっている。知識や文化を市民に還元することも稲門会の目的という位置づけからスタートした市民雑学講座が100回を迎えたそして、100回記念の節目にふさわしい講師を迎えることができた。東村山市を舞台にした映画「あん」の原作者・ドリアン助川さんである。 ドリアン1

ある日(若いころ?)のドリアンさん (ドリアンさん提供)

 助川さんは、大学卒業後、学習塾の教師、雑誌ライター、放送作家、詩人、ミュージシャン、道化師と多彩な顔を持つマルチ人間であり、浮き沈みの激しい波乱万丈の人生を送りました。

 小説「あん」を書いた理由や映画「あん」で問いかけた「生きる意味」とは何かを中心に熱く語ってくれた。 講演は、生まれながらの色覚異常のため就職の道が閉ざされ、「一人で生きていくしかない」と自らの生い立ちから様々な職業についてきたことからスタートした。 深夜番組の人生相談の仕事をしたときに、「社会の役に立つために生きるのであって、人のためにならなければ生きている意味がない」と問われ、ショックを受けた。病気が治っていても終生隔離され続けたハンセン病の元患者さんたちの気持ちを考えた時、そうした一見立派な言葉だけでは判断できない世界があると気付いたからだ。

 そして、2009年の所沢市のライブのときに、多摩全生園の元患者との出会いがあった。中学生の時に発症して鹿児島県内で隔離されたその人は、岡山県の療養所内にできた高校に入る際、客車ではなく、貨車に乗せられて運ばれたという。その後全生園に移り、8人の雑居部屋に入れられた。この時に言葉遣いや生活習慣を教えてくれたのが製菓部の老人だった。「製菓部」は患者さんの誕生日や盆と正月に甘いものをつくっていた。

 助川さんはその頃、パティシエの小説を書こうと製菓学校に通っていて、アンコも作っていた。その人と出会うことで差別の歴史を知り、最終的にはハンセン病も関係なく、人間って、生きている意味って何なんだと問いかける小説を書こうと決意した。

 そして、「あん」という小説を書き始めて3年がかかる。その間11回も書き直した。 2013年に単行本として出版され、中島京子さんや角田光代さんが書評を書いてくださり、河瀬直美さん監督で映画化された。カンヌ国際映画祭のオープニング作品にも選ばれ脚光を浴びて、小説「あん」は各国語に翻訳された。国際的な反響の広がりと感動与え続けているのは、人の命とは何かという普遍的なところで、物語のなかで徳江さんの手紙に託した「生きることの意味」が国境を超えたと、助川さんは語る。

 最後に、小説「あん」の中の吉井徳江さんの千太郎さんへの手紙を朗読して終わった。 「・・・この病気になり、もう二度と世間には出られないとわかってから、なりたいものへの夢を持つようになって、困りました。(略)しかしやはり本音を言うと、私は垣根の外に出たかったのです。世間に出て、そこできちんと働いてみたかったのです。誰もが口にするように、世のため人のために働いてみたかったのです。(略)それがいつどういうきっかけで変わったのか。はっきり覚えているのは、園の森を一人で歩きながら、煌々と光る満月を見ているときでした。もう、木々のざわめきや虫や鳥に対して、「聞く」ことを始めていた頃です。私はあの森の道で、本当にただ一人で月と向かい合っていたのです。何と美しい月だろうと思いました。自分が厄介な病気と闘っていることや、囲いのなかから出られないということもそのときは忘れていたのです。 すると、月が私に向かってそっとささやいてくれたように思えたのです。 お前に、見て欲しかったんだよ。 だから光っていたんだよ、って。 その時から、私にはあらゆるものが違って見えるようになりました。私がいなければ、この満月はなかった。木々もなかった。風もなかった。・・・」(全文は小説「あん」をお読みください)

 来場者は、201(会員:45、市民:156)名と、100回記念にふさわしく過去最高でした。

ドリアン2   講演風景                               講演後の懇親会

( 野中 昭夫、大内 一男 写真  戸田 志郎 記  富澤 文雄 全体構成 )

会員出席者 以下45名(敬称略) 青山、秋山、阿部、安藤、伊井、石井(真)、石井(光)、出田、伊吹、江藤、大内、岡田、加藤、倉田、紅松(容)、黒田、小菅、小林(裕)、高瀬、高橋(鶴)、高橋(正)、高柳、滝川(桜)、滝来(京)、田島、太刀岡、當間、戸田、富澤、中村(靖)、南湖、野村、波多野、馬場、藤井、町田(和)、三宅、森本、山本(岩)、吉田(勝)、田島夫人、當間夫人、富澤夫人、黒田夫人、野村夫人